フィルム写真はなぜあの雰囲気になるのか。Lightroomで原理から再現する話

モデル:https://www.instagram.com/kitayama_haruna/
フィルム写真の雰囲気って、なぜか言語化しにくいですよね。
「なんかいい感じ」とか「温かみがある」とか言われるけど、具体的に何がそう見せているのか。
デジタルで似た雰囲気を出そうとするとき、なんとなくスライダーを動かしているだけだと、なかなか近づかない。
あくまでも僕の持論ですが、原理を知ってから触ると、Lightroomの設定が全然違って見えてきます。
今日はその話を書こうと思います。
フィルムとデジタルは、光を記録する仕組みが物理的に違う
まず根本から整理します。
デジタルセンサーは光を「線形(リニア)」に記録します。
光が2倍来たら出力も2倍。数学的にはきれいですが、人間の目にはそれが「デジタルっぽさ」として映ることがある。
フィルムはS字カーブで光を記録します。

暗部(シャドウ)は底上げされて純粋な黒にならず、明部(ハイライト)はなだらかに圧縮されて「ふわっと飛ぶ」。
これがフィルムらしいトーンの正体です。
それ以外にも、フィルムにはデジタルにはない物理的な現象がいくつかあります。
順番に見ていきます。
フィルムがあの色になる4つの原理
① 特性曲線(S字カーブ)
先ほど書いたとおりです。
シャドウが底上げされ、ハイライトがなだらかにロールオフする。
デジタルはシャドウがパキッと黒に落ちて、ハイライトがバツッとクリップします。
フィルムはその両端が「柔らかい」。それだけで見た目がかなり変わります。
② 乳剤層の色ズレ(カラークロスオーバー)
フィルムはR・G・Bそれぞれ別の化学物質の層で色を記録しています。
各層の感度特性が微妙に違うため、明暗によって色が変わります。
シャドウ部では青感光層が相対的に強く出るので、暗部が青〜シアンに転ぶ。
ハイライト部では赤感光層が長く持つため、明部が暖色(アンバー・黄)に転ぶ。
「フィルムのシャドウが青くてハイライトが暖かい」のは、エモさではなく化学の結果なんです。
KodakとFujiで色の転び方が違うのも、乳剤の配合が違うからです。
③ 粒子(グレイン)
デジタルのノイズは均一で、格子状のパターンがあります。
フィルムの粒子は銀塩の結晶が有機的に分布していて、サイズもバラバラ。
この「バラバラさ」が、温かみのあるノイズ感として脳に届いています。
Lightroomのグレインも、数値よりも「デジタルノイズっぽく見えないかどうか」で判断するほうがうまくいきます。
④ ハレーション
フィルムには乳剤層の下に支持体(ベース)があり、そこから光が反射して乳剤に戻ってくることがあります。
これが明暗の境界で赤〜オレンジの滲みとして出る。ハレーションと呼ばれる現象です。
デジタルには物理的に存在しない現象なので、Lightroomに「ハレーション」という機能はありません。
ただ、カラーグレーディングのハイライトをオレンジ〜マゼンタ方向に少し寄せることで、近い効果を作ることはできます。
原理とLightroomの対応関係
整理すると、こうなります。
- 特性曲線 → トーンカーブ(シャドウ底上げ+ハイライトロールオフ)
- 乳剤層の色ズレ → カラーグレーディング(シャドウ:シアン〜青、ハイライト:オレンジ〜黄)
- 粒子 → グレイン(量・サイズ・粗さのバランス)
- ハレーション → カラーグレーディング(ハイライトにオレンジ〜マゼンタ)
- 彩度の質感 → HSL(特定の色だけ彩度・輝度を整える)
フィルムは「彩度が高い」のではなく、「特定の色が豊かで他は渋い」という質感があります。
HSLでグリーンの彩度を落としたり、スキントーンだけ残したりするのは、その再現です。
原理を知ると、スライダーの意味が変わる
ここまで読んでもらえれば、Lightroomの各項目が何をやっているか、少し見え方が変わったんじゃないでしょうか。
トーンカーブを動かすのが「フィルムの特性曲線を模倣している」、カラーグレーディングで色を入れるのが「乳剤層の化学反応を再現している」。
そう思って触ると、「どう動かすか」より「何を再現するか」が先に来るようになります。
あくまでも僕の持論ですが、原理から入るほうが遠回りに見えて近道だと思っています。
実際にフィルム風に仕上げてみたい方へ
この原理をもとに、Kodak Vision3 500T(タングステンのシネマフィルム)の色調を目指してLightroomのプリセットを作りました。
なぜKodak Vision3 500Tを選んだか、どんな設定になっているか、どんな写真に向いているかは、別の記事で詳しく書いています。